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千葉県立中央博物館 『特別展ティラノサウルス 肉食恐竜の世界』 [恐竜・古生物]


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 現在、千葉県立中央博物館にて『特別展ティラノサウルス 肉食恐竜の世界』開催中である。開催中ではあるが……もうまもなく終了してしまう。2012年12月24日の祝日までだ。
 当ブログにおいて実質1つ目の記事は、取り急ぎこの特別展について書きたい。なにせ魅力的なティラノサウルスが待っているからだ。

 特別展は名前からも分かるとおり、ティラノサウルスを主軸にして獣脚類のみ展示されている(例外的にヴェロキラプトルとプロトケラトプスの闘争化石も展示もある)。
 エントランスホールのカルノタウルスに出迎えられ、少し歩いた先にある企画展示室が特別展のメイン会場。左右の壁に沿ってガラス越しに化石が並べてある。獣脚類を語る上では欠かせないアロサウルス(手・足・脳幹・上顎)から始まり、人気どころであるスピノサウルス(下顎)・ダスプレトサウルス(頭骨)、そして珍しいアリオラムス(頭骨2種)・テラトファネウス(頭骨)などが展示してあった。
 ガラス越しとはいえ一般的な大型恐竜展と比べて化石との距離が近くて見やすく、解説ボードは上下に2つ掛けてあることが多かった。大人と子供の両方の視線を配慮されてのことである。「ただ展示している」だけでなく、小さな心遣いを感じられる空間になっていた。

 そして企画展示室の中央には全身骨格が2体。アフロベナトルと、主役であるティラノサウルスである。
 このティラノサウルスには『パーフェクト・スタン』という愛称がついている。スタンというからには、もちろんティラノサウルスの標本のなかでも定番のスタン(標本番号BHI3033)がベースとなっている。
 まず、パーフェクト・スタンは第一印象ともいえる全身のポーズからして他とは異なっている。アメリカにあるブラックヒルズ地質研究所と、特別展プロデューサーである恐竜くん(田中真士さん)が練りに練った末に生み出された、とてもエキサイティングなポージングだ。
 どのような勇姿かというと、頭部を下げて尾を高らかに上げた躍動感が溢れるものである。植物食恐竜を捕らえるというよりも、ヒトを噛みつこうとしているように見えるほど。ついスタンの口へ、自らの頭を突っ込んでみたくなったほどだ。今までティラノサウルスは顔を合わせることのできない見上げる存在であったが、パーフェクト・スタンは時代の距離感まで縮めてくれた全身復元骨格といえよう。

 もちろんポーズが特徴的だからといってパーフェクトと名付けられたわけではない。あまりお目にかかれてない部位の骨まで付いた、最新型の全身復元骨格なのである。
 さて、その部位というのは大きく3つある。

 1つ目は、前肢の第三指。 
 とはいえ今までの第一指・第二指のように指が長いわけでなく、中手指(手の甲)だけであり、一般的にイメージする指とはいうわけではない(写真参照)。しかも他2本の中手骨と比べても非常に小さく、サンマとワカサギくらい大きさに差がある。肉と皮のついたイメージ図では大きな差はないだろうが、座った状態から前肢をバネにして立ち上がるという説で考える場合、少しは役にたったのかもしれない。

 2つ目は、叉骨(さこつ)。 
 烏口骨の中央上、ブーメラン状の叉骨がついている。大きさは、本物のブーメランの70%といったところだろうか。前傾姿勢のパーフェクト・スタンだととても見やすい位置にある。そのあたりも考えてのポージングであろう。
 昔は恐竜に叉骨(鎖骨)はないというのが一般的であり、ゲルハルト・ハイルマンによる1926年の著書『鳥類の起源』によって、「鳥に鎖骨があるのに恐竜に鎖骨がない。進化は逆行しないはずだ」という考えにより鳥類の恐竜起源説は否定されていた。この本は名著とされ、本に書かれていた「鳥類の祖先は偽鰐類」という考えがその後40年は支持を得ていた。
 当時から叉骨はみつかっていたものの、世界中の学者や恐竜ファンが知るほどのものではなかった。しかし今は認知されている。だが、見たことなかった方も多いはずだ。
 非鳥型恐竜であるティラノサウルスと現生の鳥類を結ぶ、叉骨。あまり大きくはない骨なのに、叉骨1つがあるとないのでは、重みが違ってくるものかもしれない。

 3つ目は、腹肋骨ことガストラリア。
 口に出して言おうとすると、危うく恐鳥類のガストルニスと言い間違えてしまいそうである。覚えやすいような覚えにくいような。
 さて、ガストラリアについてはティラノサウルスの記載者であるアメリカ自然史博物館のヘンリー・フェアフィールド・オズボーンが書いた論文に登場している。しかしその後は世間から存在を否定されたり忘れられたりと色々あったが、晴れてパーフェクト・スタンには大きなガストラリアが付いている。
 ガストラリアは、最初はほぼ真横に伸び、だんだんと斜め上へと方向を変えている。通常の肋骨よりも小さく、カーブも緩やかといえよう。さながら、かまぼこをひっくりかえしたようなラインである。
 実際のところ、このガストラリアの角度と位置というのが少し気になっている。ゴジラ型でなく平行型の姿勢が定着した現代なら、「これならなんとなくお腹を支えるのにちょうどよさそうな角度だなぁ」とパーフェクト・スタンをみていると感覚として納得してしまう。だが、ガストラリアの角度と位置というのは、ある意味ではお腹そのものの大きさを決定する主因となる。
 今までみてきた数多くのティラノサウルスのイラストや映像よりも、パーフェクト・スタンは明らかにお腹が大きい。平均的なティラノサウルス図のボディラインは肋骨の末端がそのまま閉じていったようなラインを少し膨らませた程度のものだ。もちろんイラストはイメージで描いたのもあれば学説などをもとに描かれた再現図もありお腹の大きいものもちゃんとあるが、少数派に思えた。
 ガストラリアの位置は中央というよりは下半身よりであり、胸部から腹部にかけてボディラインが膨らむように付けられていた。たしかに水平型姿勢のバランスも、胸部よりも腹部が大きいほうが立ちやすいだろう。推定される食事量などを考えれば、今まで私がみてきた絵がスリムすぎただけかもしれない。ぶっとい腹部なら肉もいっぱい入るし、ガストラリアがあることにより胃を中心とした臓器も支えやすいのかもしれない。こちらも見た目からの推測であるが、腹部が大きいということにより、早く走れるようには見えない体型にもなる。
 
 人によっては「骨が3カ所ついただけ」と言うかもしれない。
 国立科学博物館で開催された『恐竜博2011』のお座りティラノサウルスと比較しても「ポーズが変わっただけ」と思うかもしれない。
 だが多くの恐竜好きの根幹にあるティラノサウルスへの羨望に似た興奮を掻き立ててくれるパーフェクト・スタンは、生物の進化と古生物学の歴史がじっくり詰まった一体だ。

自己紹介 [エッセイ・雑記]

駆け出しサイエンスライター、服部玄臣(はっとりはるおみ)のブログになります。

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タグ:雑記
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